こころの食育 #11

しあわせ醸す「発酵ライフ」

〜味憶に残る魅惑のテイスト〜




ミラクルな「発酵菌」と共に暮らす

『“金”に目がくらむは「腐敗」 “菌”に目覚めるは「発酵」』。名言とは言えないが、「発酵」で生活を潤す術を探ろうと、最初に浮かんだ文句がこれ。今月号の「表紙のごはん」も発酵食の主役「麹」特集。これを味方にするだけで、たちまち発酵生活のとりこになる。僕は糠漬けに憧れるものの敷居が高く、市販の「塩麹」で大根や蕪漬けなどを楽しんでいた。これからはせっせと自前の塩麹を作りたいし、初挑戦した「タマネギ麹」がとても魅力的だったから。

味噌や酒など日本の食を支えているのが「ニホンコウジカビ」(学名/アスペルギルス・オリゼ)で、醤油は「ショウユコウジカビ」(アスペルギルス・ソーヤ)の黄麹菌。これは日本の「国菌」に認証されて、東アジア中心の発酵食品に使われ、焼酎・泡盛には黒麹菌や白麹菌が働いている。麹菌はデンプンやタンパク質分解能力に優れ、調味料、甘味料、醸造酒はもちろん、抗生物質やビタミン類など多様な代謝産物を生成する。高峰譲吉がデンプン分解酵素ジアスターゼ(アミラーゼの別名)から抽出した「タカジアスターゼ」(健胃・消化薬米国特許1895)は世界初の酵素医薬品だった。

麹菌は麹酸という抗生物質を作ってブドウ状球菌を抑え、青カビはペニシリンを生成しさまざまな悪性菌を抑える。つまり自然環境や腸内環境では、くだいていうと善玉菌と悪玉菌が拮抗しあい、発酵と腐敗の生存バトルが繰り返されている。そして生き残る発酵菌は優れた保存性や、豊かな滋養と味覚の恵みを与えてくれる。小さじ1gの糠漬の糠みそには、乳酸菌が約8億個、その他の細菌や酵母数も1億個以上生きているという〈*1〉。なんとミラクルでワンダーな世界だろう。地球上には未開の発酵微生物は無数に共存しているのだ。



発酵の発想でこころの新陳代謝を

「麹菌」以外に発酵菌の代表的なものは?ブドウ糖をアルコール分解する「酵母」、味噌、漬物、ヨーグルト、チーズなど糖を分解して乳酸をつくる「乳酸菌」、枯草菌の一種で納豆をつくる「納豆菌」、アルコールを酢に発酵させる「酢酸菌」など日頃から親しむ発酵食。さらにうまみダシの「鰹節」、「熟鮨」(なれ鮨/近江の鮒鮨、紀州さんまの熟鮨、富山の鯖鮨、秋田のはたはた鮨、金沢の蕪鮨)、「魚醤」(しょっつる、いしる、くさや、へしこ)、「発酵豆腐」(沖縄の豆腐ヨウ)これら伝統発酵食こそ日本人の豊かな味憶となっている。

中には食す機会が減少したものもあるが、発酵文化として温故知新でつなぎたい。例えば沖縄の泡盛で作る「豆腐ヨウ」だが、熊本では豆酩(とうべい)という豆腐の味噌漬けがある。これなどは手作りもでき、カマンベールに近いコクとうま味を醸す。もろみで漬けたウニのような食感の「山ウニ豆腐」、スモークチーズのような薫製豆腐などがあり、工夫次第で好みの発酵食作りを楽しめる、想像するだけでなんとも刺激的ではないか。

そんな発酵レシピの例。「酒粕ヨーグルト」(酒粕とヨーグルトを一対一で合わせる)にアボガドを漬けるとやみつきの味に。切干し大根を酒粕ヨーグルトにつけて戻すとそのままサラダに。「タマネギ(おろし)麹」も絶品だが、タマネギ(スライス)を梅酢に漬けるだけの「酢タマネギ」も便利な調味素材に〈*2〉。身近な発酵食材の活用「温故知新」で、新しい発酵ライフが訪れる。何より発酵菌とのコラボが魅力だし、善玉菌で腸が喜び、こころの新陳代謝『温故知心』も活気づく。発酵ライフの発想から、きっと未知の幸福感が醸し出されることでしょう。

〈文責〉コピーライター 小山寅哉

参考
〈*1〉「発酵食品礼讃」(小泉武夫/文藝春秋)
〈*2〉「ゆるくてしあわせな発酵生活」(田中菜月/三笠書房)