こころの食育 #08
『味憶』が心を豊かにしてくれる
食が心をつくり人をつくっているから
「腹の虫」の目覚まし時計
「今夜の献立は何にしよう」毎日のこのささいな問題だけでも悩ましい限りで、食の問題は実に人生の基を占める重要問題。なにしろ一日3食、一年1,095食、十年で10,950食、何を食べるかの悩みは続く。今では戦時下とは比較にならない贅沢な悩みだが、侵略戦争であらわになった食料安保、さらに地球環境クライシスが迫ると、たちまち命に関わる問題となる。だからこそ「食と農」は命綱、人類の永遠のテーマ。「生きるために食べる」ことができている、それだけでいかに有り難いことか…常に“感謝の念”で食すべきだと思う。
今はほんとうに恵まれている。「今日は何を食べるか」などという悩みこそ悩ましいものだ。それが毎日続く限りは、少しでも開放されたい。例えば季節ごとに「定番メニュー」を決めておき、それを週間サイクルで繰り返す。合間に自分の腸と相談し、腸が欲するものをその日のメニューに。考えるのは誠に面倒だから「腹で決める」。これがいたって単純明快な解決法だ。
ポイントは「腹の虫」。ク〜とかグ〜の合図は、何を食べてもうまいのサイン。おいしいという満足感は、腸から発する『脳腸相関』の反復で脳が記憶する。腸が納得しなければ、どんなご馳走も胃袋止まりで、記憶には至らない。食の満足はまず空腹が導き、次に舌の味蕾が味わい、最後に腸がよろこぶ味覚で腹の虫は治まる。腸には確かな味の記憶『味憶』が備わっているはずだ。体が求める食とは腸が欲するものである。だから食事は決められた時間で摂るのではなく、腹の虫の目覚まし時計と『味憶』に従うのが理にかなった食べ方でしょう。
腸がよろこぶ食を定番メニューに
それは誰でも実感しているはず。腸からの「あれ食べたい」メッセージで、その日の献立は決まっていませんか。DNAで結ばれた家族とは、食の好み(味憶)も似通った腸の持ち主。腸が食の好みのフェロモンを発し、互いが引き合うこともあるそうで。だから恋愛中に、好みが余りに食い違うようなら、もう一度考え直した方が良いかもしれない。食の好みが『味憶』として腸が記憶し、それがその人の心をも形成しているからだ。
「腸は脳の生みの親」であることは明らかになっている。脳と腸の同じような形態からも想像はつくが、腸の網目状の神経細胞は脳とほとんど変わらない。生物進化の始まりは腸が原初で、脳はずっと後のこと。腸状の原始生物が食物を選んで生き延び、進化の過程で神経細胞が脊髄の原型となり、より複雑な動きを可能にするために脳を誕生させ、発達させてきた。
腸は食の好み、感情、人格さえコントロールしている可能性があるとされ、自分の意志で生きる臓器で、脳さえも支配すると考えられている。腸が心にも作用し、性格さえ決める可能性はネズミの実験でも示された。ある期間、一方のネズミには旨味(グルタミン酸)、一方は糖分のみを投与した後、二匹を一緒にさせると糖分ネズミは極端に攻撃的になり、穏やかな旨味ネズミを傷つける。人も母乳から旨味を受け取ると、性格が寛容で穏やかに育つという証でもある。何よりも腸がよろこぶ食を心がけ、それを定番定食とすれば毎日が快腸!同時に献立の悩みも解消!
