こころの食育 #07

食べ方で生き方がきまる

私たちは食べた物でできている



『脳腸相関』から心がうごく

この食育シリーズも今月号で45回目を迎え、回を重ね書き続けている間に、自身の信条ともいえるような『食べ方は生き方である』という言葉に辿り着くことができた。結論として「正しい食べ方をする人」の生き方に一点の曇りはなく、「人間は食べ物でできている」ということを実感できるようにもなった。さらに、「食=健康」だけでなく「食=心」という概念を追究すべき必要性を直感できたことも成果だった。特に最新科学で『脳腸相関』の事実が解明されたことで、『食が心をつくる』という自身のレトリックも、晴れて裏付けられたような気がしている。

『脳腸相関』とはつまり、脳と腸は神経で密接につながっていて、脳がストレスを感じると、腸内環境が悪化し、下痢や便秘を引き起こす。逆に腸内環境が悪化すると不安やストレスを生じる。以心伝心のような『脳腸相関』の働きを司るのが「セロトニン」という神経伝達物質である。そしてこの物質のもとを作るのが、腸内細菌であることが最近わかってきた。腸内環境が安定していると精神も安定するが、セロトニンが不足すると、たちまち不安に落ち入るといわれている。

私たちの睡眠中にも、腸内細菌がさまざまな病原菌に対抗する抗菌物質をつくり、免疫細胞を操ってさまざまな病気をコントロールしてくれている。不意に感じる些細な不安やストレスも、それが高じると過敏性腸症候群に陥り、うつ・自閉症・アルツハイマー・パーキンソン病などの引き金となってしまう。腸内細菌は絶え間なく免疫機能を増強させて、病気や感染を防御することから、メタボ予防や記憶力アップ、持久力アップなど、新たな可能性も発見されてきている。



腸内環境は地球環境との共生をのぞむ

ガッツポーズの「ガッツ(guts)」は英語で「腸」の意味。やる気とか根性を表す。日本でも「腸」は「はらわた」とも読み、心や性根を意味する。腹の内(心の中)、腹が据わる、腹の虫、腹八分など、[腸=腹=心]に共通する使い方が多く見られるのは、古くから腹と心の相関関係は経験的に分かっていたかのようだ。「心」は「脳」によって形成されるが、それ以前に『脳腸相関』を制御する「腸」の働きが、「心」をもコントロールし、食の好み、感情、性格、人格さえ変わる可能性があるとみられている。

食が体の健康をつくることは食育上の基本だが、健全な心をつくることがはるかに重要だといえる。食とは“健康づくり”だけでなく、人の一生を決める“心づくり”に不可欠なのだ。人生の目的には、人それぞれの夢や目標があり一概に表現できないが、要約すれば「心の満足」とか「充実感」さらには「幸福感」だろう。心を満たす幸福感は何であれ、その喜びを共振させるのも『脳腸相関』の働き、その根本の腸内環境をつくる1,000種/100兆個の腸内細菌に行き着く。

しかし地球の動植物800万種の内100万種が絶滅危惧種とされ、生物多様性の減少に歯止めがかからないように、われわれの腸内細菌、微生物も急激に減少しつつある。それは地球が病んでいるように、人間の腸内環境も危機に直面しているのだ。いま私たちおとなに与えられた責務は、未来を生きるこどもたちの腸内環境を健全に守ることではないか。“フード of 風土”「国消国産」しかり、自然との共生、食物繊維や発酵技術など、腸内細菌を守る食法を次世代に引き継ぐ責任は重大だ。腸内環境を健全化する知恵が発揮できれば、地球の健康(プラネタリーヘルス)を回復する英知も結集できるはずだと信じている。

〈文責〉コピーライター 小山寅哉