こころの食育 #06
いのちに直結する“フード of 風土”
生まれ育った地に腸内細菌も叢生(そうせい)している
微生物叢の多様性がこの二世代で半減
「日本の食料自給率は過去最低の37%」—前号と同じ書き出しで、声を大にしたかったこと。それは『日本の子どもたちは“国産食37%と輸入食63%”でできている』ということ。人は毎日の食べもので作られ、人の未来も食べたものできまる。風土によって産出された食物で人は育つ。世界中からかき集めた輸入食63%、魚・肉・野菜・果物ほか、醤油・味噌など調味原料が輸入食材でも、国内加工なら国産品か?こんな食料事情で“和食の世界遺産”を誇れる気がしない。
「国消国産」をかけ声だけに終わらせず、“農こそ尊い仕事”と誰もが認め、発展する農業国でありたい。欧州諸国では自給率の高い農業先進国が多い。そこには「ガストロノミー(*1)」という伝統食文化や「スローフード(*2)」等の哲学に根付いていることが推察できる。日本にも食と健康に関する秀でた考察はあった。明治期の食養運動で提唱された「身土不二」は身体と風土は一体であると説いた。京の都にも「四里四方(16㎞圏内)の物を食せ」という伝承があった。
問題は食の変化による体の異変。母から子へと受け継がれ、免疫系、代謝系、神経系の発達にも重要な役割を担う「腸内細菌」。20世紀以降の産業化に伴い、高度に浄化された飲用水、精製・加工食品、抗生物質などの普及で、腸内環境の微生物の多様性が減少(たった二世代で半減!)。免疫系に働く微生物叢が危機的状況だという。米ラトガース大学教授らの研究チームは、微生物の多様性を保全する“ノアの方舟”の創設を提言する論文を発表(サイエンス2018)。「人類は20万年に及ぶ進化において、先祖と共に生きてきた微生物を次世代に引き継ぐ義務がある。手遅れにならないうちに着手しなければならない」と説いている。
多様な「農と食」で腸内細菌を守る
「国消国産」は、風土に添った「地産地消」推進の先にある。南北に細長い列島に必要なのは大規模農業より、小さくても多様な農業開発だろう。「四里四方」の物を食せる幸せのために、地元独自の多種多様な農の国へ。それは1000種100兆個の腸内細菌と共生する上でも理にかなう。風土に特化した多品種少量生産の“小さな農”が波及することで、自給率アップが見えてくる。農業はGDPではなくGNH(*3)の視点で裾野を広げるべきだ。
農の多様性により、食の多様性も期待できる。いのちに直結する腸活には理想的だ。微生物の主食は「食物繊維」。健康な腸内環境の維持には毎日20〜25g必要とされる。確か野菜だけだと一日300〜400g!冬の鍋ならいいがサラダで毎日は無理。おススメは食物繊維の「五目炊込ご飯」。根菜の牛蒡・人参・蓮根、乾物の干椎茸・切干大根・昆布・ヒジキや芋・豆類などを組み合せ、名付けて“副菜いらず一釜多菜”『ファイバーライス』(旬の生鮮により和洋中で変化)。炊き込めなかった食材は『ファイバー味噌汁』に。腸が盛んにぜん動運動して感喜する。
炊込以外のご飯は胚芽米のもち麦入り。発酵食も毎日摂りたい。漬物、豆腐、納豆、チーズ。沢庵も炊込みに加えたい。パンのときは全粒粉、ライ麦、胚芽米パン。麺類は十割そばや全粒粉パスタを主体に。しかしよくよく思うに、おとなはもういい。心配は子どもたちの腸内環境である。今の自給率の国産食で、未来を担う“この子らの腸活”をどう守り育てるかが問題…「こころの食育」でもっと深く追究し、幸せへの確実な道筋を探りあてたいと願う。
(*1)「ガストロノミー」[仏:gastronomie/英:gastronomy古代ギリシャ語の「ガストロス」(γαστρος、消化器)+「ノモス」(νομος、学問)から成る合成語。]食や食文化に関する総合的学問体系。美味学、美食学とも訳されるが、19世紀フランスのブリア・サヴァラン(1755-1826)著『美味礼讃』(原題「味覚の生理学」)から広く使われる。「食こそ精神生活の根源」であることを実証的に説き、食味の楽しみを罪とする禁欲主義から人々を解き放った人間哲学の書。スローフード運動の発起人らがイタリアに「食科学大学」を設立(2004年)。東日本大震災からの復興プロジェクトの一つとして「三陸国際ガストロノミー会議」(2019年岩手県宮古市)が開催された。
(*2)「スローフード」カルロ・ペトリーニ(1986年イタリア)によって提唱された国際的な社会運動。ファストフードに対して唱えられた考え方で、その土地の伝統的な食文化や食材を見直す運動、または、その食品自体を指す。
(*3)「GDP」国内総生産/「GNH」(Gross National Happiness)国民総幸福量
