こころの食育 #05

ふつうに“おいしい幸せ”をいただけますように

“命を守り心を育む”持続可能な食と農



日本の幸を「幸せの力」にする農力

日本の食料自給率は過去最低の37%。2050年には世界人口が100億に達する。激動する混迷の世界情勢にあって、食料の輸入依存は環境的にも人道的にもこれまでのようには立ち行かなくなる。食料安全保障の問題は世界を揺るがし、途上国ほど食料危機に直面している。いままさに推進すべき「国消国産」とは、地元足元の「地産地消」対策が根本にある。私たちが暮らす地域で食料を賄う『地給地足(じきゅうじそく)』に、心して取組むべき状況にある。

地球はいま、地球始まって以来最大の存続危機にあり、いずれ世界は、自国で自給自足できなくなる恐れもある。食料はもう輸出入どころか、自国での生産確保で精一杯。自国ファーストを宣言するまでもなく、食料・エネルギー安全保障が揺らぐと、国の自立さえ危うくなる。待ったなしの地球環境にあって、「国消国産」は「地産地消」を促すことであり、全国各地の暮らしの未来を支えるためには、地域のこれからがふんばりどころ、がんばりどころに直面している。

食料自給力は国の「生命力」だ。自給自足できるのは国民の「民力」であり、国民力は「農力」が基盤である。それは食物は生き物だから。豊かな農の力で安心を味わえる「おいしい国」は、国民の揺るぎない「幸せの力」。また食料自給力は国の「自立力」を示し、国産の「日本の幸」が「生命力」と「幸福力」を培う。科学技術以前に、持続可能な農の力で命の安全保証を確保することが、最も優先されるべき重大テーマ。国民の命を守ることが国家の第一の役割である以上、「農の力」は“命を守り心を育む”人類必須の生業なのだと肝に銘じよう。



「国消国産」の目的は自立する「幸せの国」

地域の食の未来を構想する「食と農の未来会議」(FPC)によると、日本の食料消費のEF(エコロジカルフットプリント*1)は、都市部や高齢者の消費で主に輸入食品と加工食品が増加している。食のEFを縮小するには、地産地消が必要。また食料生産は、工業的な大規模農業や単一品種栽培から、アグロエコロジー*2に則った農業に移行すべきだが「国の新規就農者支援は工業的農業に偏り、持続可能な有機農業の研修が乏しい。地産地消の分散型フードシステムや、アグロエコロジカルな生産を後押しする政策が必要」としている。

我が国にも環境負荷の軽減を目指す「循環型農業」がある。化学肥料や農薬を適切に施用しながら、廃棄物などを有機資源化(畜産排泄物などを堆肥化)して圃場で活用する、耕畜連携の取り組みなどが普及。収益の拡大だけでなく、将来にわたって農作物を安全かつ安定して供給する持続的な農業経営が求められている。循環型農業は、環境保全型農業の一部として位置付けられ、農林水産省では循環型農業を推進する一環として、「エコファーマー認定制度*3」を設け、都道府県から認定を受ける農家が増加している。

またJAグループが推進する「国消国産」は、食と農の実態や課題を国民の理解を得ながら、食料を生産する農業・農村を支えたいと考える人が一人でも多く増えることを切に願い「私たちの食料を未来につなぐために、私たち自身が考え行動することが大切」とスローガンの浸透に努める。“命を守り心を育む”「食と農」の視点で地元の『地給地足(じきゅうじそく)』に少しでも役立てることがないか—例えばシェアリングエコノミー(共有経済)の概念や、「循環」「共有」という新しい価値を生む社会システムの構築、地域のフードポリシー・ネッワークを通じ、“環境と健康を両立する食”の実現。そして“日本の幸を味わえる幸せの国”に向って共に歩みたい。

〈文責〉コピーライター 小山寅哉



※1.「EF」(エコロジカルフットプリント「=人間活動が地球に与える負荷」)が1980年代半ばに地球の生態系の許容力を上回り、10年前にEFは1.3倍。つまり地球1.3個が必要で2030年には地球2個が必要になる。/世界自然保護基金(WWF)「生きている地球レポート」
※2.「アグロエコロジー」1980年代後半、ラテンアメリカから始まり世界に広まった、自然と共生する昔ながらの農業。農薬を使わず、多様な品種の作物を育て、代々受け継がれてきた種子を守る、自然環境や生態系に負荷をかけない、サステナブルな農業。
※3「エコファーマー認定制度」持続農業法に基づいて堆肥を用いた土づくりと化学肥料・農薬の施用量低減に一体的に取り組む農家であることを公的に証明する制度。2020年3月時点で認定件数が83,767件、新たに1,912件の農家が認定。5年の認定が終了した農家を含めると、約31万2千件の農家が循環型農業に取り組む。