こころの食育 #03

日本人に生まれてよかったと思える日

一年一生の計は「こころが豊かになりますように」



こころを込めて「いただきます」そして「ごちそうさま」

もともとの正月は二十四節気最初の「立春」にあたる。冬に死んだ魂を甦らせ、生命が漲る春を迎える。「おめでとう」の意味は、新しい「芽」が出て新たに生まれかわるから。すべての日本人は元旦一斉に一つ歳が改まる「かぞえ歳」の習慣だった。新魂(あらたま)が宿り、こどもが喜ぶ年玉も、もとは年魂(としだま)。除夜の鐘で百八の煩悩を浄め去り、正月は何もかもがあらたまる。初日の出や、初詣に一年の計を祈願し、家族と国の幸せを願う、一年で一番特別な「ハレの日」。古来の風習は簡略化され気分は希薄になりつつも、おせちの祝い膳だけは通販に頼ろうが欠かせない。

伝統的なおせちと雑煮の「ハレの膳」は、平安時代に朝廷の節句料理として確立し、江戸時代には庶民の食卓でも倣うようになった。天皇家のおせち(昭和天皇の正月の夕餉)には、◆柚子釜 ◆数の子 ◆田作(たつくり) ◆黒豆の含め煮 ◆日の出蒲鉾 ◆栗きんとん ◆若鶏(つくね)松風焼き ◆芽甘藍(メキャベツ) ◆里芋の煮付け ◆鮭のウニ焼き ◆雑煮(白味噌仕立に丸餅の京風) ◆雉酒(きじざけ/燗酒に薄塩で焼いた雉肉を5〜6分浸けた宮中の祝い酒) 天皇家も庶民の食卓も、子孫繁栄の数の子、五穀豊穣に通じる田作、まめに働き健康に暮らす黒豆、よろこぶに語呂を合わせた昆布巻きなど、言霊を込めた縁起物で平穏無事を願う。体を養い、精神を癒し、魂があらたまる聖なる場=食卓にのぼる「山海の幸」をいただいて、人は「人の幸」をいただけるのである。


感謝を込めて「おめでとう」そして「ありがとう」

まるでトラが牙を剥いたような寅年。卯年こそ「日々是好日」が続く年でありますように!ただ唯一希望をともす快挙があった。「国際子ども平和賞*」を豊中の高校生、川崎レナさん(17)が受賞!ハーグ(オランダ)の授賞式でのスピーチも感動的だった。『私たち若者は見るはずではなかった“つらい悔しい日本の現実”を見てきています。それでも理想や希望をまだ持っています。政治家になる前にかっこいい大人になって下さい。私たちに子どもらしく夢を持たせて下さい。私たち日本の子どもは皆が理想とする、かっこいい日本になってくれるのをずっと待っています』若者たちは生まれ育った日本に“誇りを持てない”その悔しさをバネに代えた。“つらい現実”の一つに、議会で居眠りする政治家の恥ずべき姿が述べられた。肝を冷やした居眠り議員だけでなく全ての大人たちは、彼女のメッセージを肝に命じなければならないだろう。

大人も子どもも幸福感を持ちにくくなった昨今。『知足少欲』が幸福への近道と思うが、禅の四字熟語はなかなか腑に落ちにくい。そこで補足するなら「“無いものねだり”をやめて“有るもの満足”」と発想転換してみる。いつのまにか忘れ去られてしまった「辛抱・我慢」強さや「もったいない」精神は、もともと日本人が備えていた美徳だったはず。あるいは「“無いがまま”を“有るがまま”に楽しむ」という天真爛漫さこそ、かっこいい日本人ではなかったか。とにかく『知足少欲』とは「もっともっと」という欲望から自らを解き放ち、こころ自由な生き方を示すこと。世界の誰もが認めるような少女の見事な生き方に、心から「おめでとう!」と「ありがとう!」を伝えたい。

〈文責〉コピーライター 小山寅哉



●参考/『天皇家の食卓』和食が育てた日本人の心/秋場龍一著(角川文庫)
*「国際子ども平和賞」は、オランダの人権団体「キッズライツ」から子どもの権利向上に貢献した個人に毎年贈られる。過去ノーベル平和賞のマララ・ユスフザイさんや環境活動家のグレタ・トゥンベリさんも受賞。世界46カ国175人以上の候補者から川崎レナさんが選出。彼女は、14歳のとき、環境問題や人権問題などに取り組む、国際的NGOの日本支部を創設。学校と地域の政治家を、直接バーチャル会議でつなぎ、子どもたちが政治に積極的に参加できるようにするなど、若者の政治や社会参加を促す活動が世界に評価され「プロジェクト資金」として10万ユーロ(約1,450万円)が贈呈された。(2022年11月14日/共同通信)