こころの食育 #02
「あぁ幸せだなぁ〜」って毎日感じられますか
「こころを豊かに育む」ために人は人生を歩む

こどものこころを力づけるのがおとなの役目
大人とは本来、「乙名(おとな)百姓」と呼ばれた村の重鎮だった。元は中国の「大人(たいじん)」で、人徳のある人を指す。「食育」に於いても見識を持つべきと、「おとなの食育」として来たが、このところどうも大人が頼りない。かく言う自分自身も含め、大人気ないおとなが漫然と大人を演じているだけのようで、つまり核心を見失った大人たち、子育てにも自信を持てない危うささえ感じる。
日本のこどもの自殺率の高さや「精神的幸福度」がワースト2の現実(*1)それを裏付けるようなこどもの7割がいじめの加害者で、8割が被害者といういじめの実態。前号で示した深刻さに追い打ちをかけるのが児童虐待のデータだ。『児童虐待 最多20万7659件』(*2)親がこどもに暴言を浴びせる、無視するなどの心理的虐待が6割も急増しているという。
来年4月発足の「こども家庭庁」は、「こどもまんなか社会」の実現を掲げるが、児童虐待もいじめも、全ては家庭内の大人が問題。こどもの心を支え、生きる力を育めていないのではないか…こどもの幸福度は、おとなの幸福度に比例する(*3)。日本は幸福になれない社会構造なのか。成績や収入だけで優劣をつける競争社会の歪みを正し、多様性価値を認める社会への転換が急務だ。
では幸福とは何だろう。人はよく経験のない美味に出会ったとき「ああ、幸せ」という。確かに食の力で口福を感じられ、時に感動すら覚える。幸福とは命のよろこびを尊び、心が輝いている人にしか訪れないものだと思う。ところが先進諸国の国内総生産(GDP)の経済指標が、人々の幸福に役立つどころか、反対に人々を不幸にするようなことになってしまっているのではないか…そんな疑問や不安がよぎるのも頷ける。
こころが勇みたつ生き方考え方をまとう
GDPに対し1970年代、九州位の国土で、農業とチベット仏教の国「ブータン王国」が指標に定めた国民総幸福量GNH(Gross National Happiness)(*4)がある。いまだ発展途上だがGNHは世界で反響を生み、日本でも、政策の評価は全国民の幸福感を統計した指標を参考にすべきだ、という声も上がっている。
一方「我々は発展するために生まれてきたのではない。幸せになるために地球に生まれて来たのだ」(ウルグアイ元大統領「ホセ・ムヒカ」)(*5)「国連持続可能な開発会議」(2012年ブラジル)での講演が世界中に響き渡った。日本でも絵本になって話題に。そして「日本はすごく進歩を遂げたが、産業社会に狂わされて行くだろう。日本人が幸せかどうかは疑問。150年前の魂を失った」と語る。
「貧しい人とは、少ししか物を持っていない人ではなく、もっともっとといくらあっても満足しない人のことだ」「人類の幸せ、愛、子育て、友達、必要最低限の物で満足する。幸せこそがいちばん大事な宝物。環境の一番大切な要素は、人類の幸せであることを忘れてはならない」そして「人間の考え方を変えなければ何も変わらない」と説く。まさに「知足少欲」の生き様。ブッダは「目覚めた人」という意味だが、俗名『シッダールタ』は「人々に幸福を運ぶ者」という意味。ブッダには遥かに及ばずとも、誰もが幸せになる考え方で、こころ豊かに生きたいものである。
*1 ユニセフが2000年から行う先進国の子どもの調査分析報告書「レポートカード16」(2020年)
*2 全国の児童相談所が昨年度、児童虐待の相談を受けて対応した件数が過去最多。1990年度統計開始から31年連続増。子どもの面前DVの心理的虐待は10年前の2倍増。(9月9日厚生労働省)
*3 国際連合は、1人当たり国内総生産(GDP)や健康寿命、他者への寛容度などから「世界幸福度ランキング」を公表している。トップ5はフィンランド、デンマーク、ノルウェー、アイスランド、オランダ。社会保障が充実した北欧諸国が上位。ちなみに日本は58位。ムヒカ元大統領のウルグアイは30位。(2019年156カ国対象)
*4 国民総幸福量(GNH)の4本柱/①持続可能で公平な社会経済開発 ②環境保護 ③文化の推進 ④良き統治に加え「心理的な幸福」「国民の健康」「環境の多様性と活力」など9分野の指標で幸福の実現をめざしている。
*5 「『ムヒカ』世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ」(ドキュメンタリー映画/2020年)

「世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ」(汐文社)