こころの食育 #01
「食育」は「こころの食育」ステージへ
ほんとうに大切な「こころのちから」を育てるために
国を挙げての「食育」から見えてきたもの
体育、知育、徳育の中心に食育を据えた「食育基本法」(2005年制定)から、はや17年。国の指針に基づく食育を授けた子たちも成人まぢか。そんな折、「こどもの幸福度ランキング」(ユニセフ報告書*1)にショックを覚えた方もおられただろう。なにせ総合順位は調査対象38カ国中20位。身体健康レベルは1位だが、「精神的幸福度」はワースト2(37位)!この結果は何を意味し何が原因か。
まず「幸福度」は原文の「ウェルビーイング」を翻訳したもので「子どもの生活水準や心身の健康など、子どもの状況全体を表す」。精神的幸福度では「生活満足度が高い15歳の割合」と「15〜19歳の自殺率」の2つの指標を基にしている。その一つの「生活満足度」に対し、「満足している」と回答した割合は平均76%。日本、韓国、英国、トルコの4カ国は7割を切り、日本はワースト2位の62%。これはトップのオランダ(90%)と比較すると衝撃的。
さらに問題は「15〜19歳の自殺率」。2018年度に自殺した児童生徒数は332人と1988年度以降最多を記録。前年比で82人増え、1.3倍。文科省の調査では「原因不明」が6割だが、警察庁の調査では、19歳以下の自殺における原因は「学校問題」が最多で、特に男子の場合は約4割を占める。昨年大きな問題になったが、日本の10〜14歳の子どもの死因の第1位が初めて「自殺」になり、15〜24歳の自殺率は先進国でワースト1である。
日本の子どもの体格は立派になったが、こころは脆弱?人としてのこころの土台とか基礎が育っていない。確かに地球環境の異変や国際紛争、コロナ禍による生活障害や格差社会の問題など、負の要因が厚い壁に。過剰ストレス社会の影響もある。しかも『コロナ禍自殺8000人増』(令和2年〜今年6月にかけ、新型コロナウイルス感染症が流行した影響で増加した自殺者)最多は20代女性で、19歳以下の女性も多いという。(産経8月17日)
「食育」の真価が問われる「こころの食育」
子どもの生活満足度は、自己肯定感や友達関係が大きく関係する。学力偏重の教育風土を正す必要もあるが、学力や友達関係が悪くなる要因が経済的格差。コロナ禍で学力、体力、情緒や不安感の格差を広げた。子どもを評価する風潮を変え、多様な人材や価値観が認められ、報われるような社会変革が必要。子どもが一人の人間として、自身の考えや意見が尊重され、その子の人生に反映される社会を大人は用意するべきなのだ。
一方、日本は「いじめ地獄」状態。子どもの7割がいじめの加害者で、8割が被害者(国立教育政策研究所の追跡調査)。一刻も早くいじめの構造的解決へ向かう時。「子どもの権利条約*2」にも謳われている子どもの「参加する権利」が、あらゆる面で重要。コロナ禍の状況は、誰もが未経験。未知のステージへは子どもと共に歩めば、必ずアイデアが生まれる。一斉主義を脱し、子どもも学校も多様を認める。子どもの声を聞き、あらゆる面で子ども参加が実現すれば、おのずと幸福度は上がるはず。
子どもの幸福度を高めるため、僕は「おとなの食育」の経験上「こころが感動する食育」を提唱する。それは“脳で考える”食育ではなく、“こころで味わう”食育。食は心身の健康をつくるが、何よりこころを充たし、心根(人格)をつくるもの。だからこれから国を挙げて取り組むべきは、食のこころを耕す「農育」であり、当JAの「食農体験学習」のさらなる深化に期待したい。
*1 ユニセフが2000年から行う先進国の子どもの調査分析報告書「レポートカード16」(2020年発表)より
参照 : 尾木 直樹 氏(教育評論家・法政大学名誉教授)、阿部 彩氏(東京都立大学 人文社会学部教授、子ども・若者貧困研究センター長)
*2 ユニセフ「子どもの権利条約」は、子どもの基本的人権を国際的に保障するために定められた条約。前文と本文54条からなり、子どもの生存、発達、保護、参加の包括的な権利を実現する必要事項を規定。1989年第44回国連総会において採択、1990年に発効。日本は1994年に批准。
