おとなの食育 NO.9
安心・健康・おいしいのは手づくり
食文化とは自前のもの
自分や家族が食べるものはテマヒマいとわず手づくりできれば、それにこしたことはない。外食よりなにより、手づくりは安心で健康でおいしいから。そうしたくてもなかなか料理に専念できる余裕はなく、仕方なくついつい惣菜売り場の出来あいですませたり、おとな(主婦や主夫)は日々、葛藤しているというのが実情でしょう。
自前の料理の技量を過小評価しながらも、冷蔵庫の中身をチェックして、自分や家族が食べたいもの、作ってみたいメニューが決まったら、いざ食材を購入し、一念発起して台所に向かう。手づくりの楽しさはいいけれど、調理前の下ごしらえや後片付けがけっこうシンドイ。人生修行のつもりで頑張っても、毎日、毎食、毎度の連続、1週間も続けるだけで疲れ果て…
和食を中心にすれば気楽だけれど、若者には飽きられやすく、中華風やら欧風やら、アジアン風、とかく家庭料理も多国籍化が進み、これを豊かな食卓というのでしょうか?
和食とはそもそも何なのか、もはやおばあちゃんの手づくりの味、おふくろの味、家庭の味はなくなって、実態不明の雑食民族に成り下がったか。だからこそ、我が家の食文化を再確認し、「生活食」を大切にすべきだと反芻するものの(すでに手遅れかもしれないが……)
でもテマヒマかけない
実態はどうあれ、何事もマイナス思考は体のためによろしくない。食べることには、常に前向きであるべきで、積極的に「手づくりの食」=「よろこびの食卓」の実現をめざす。そのための近道を見い出そうと、奮闘努力はするものの、結論的に近道などなく、料理は回り道しかないような…たとえ遠回りでも、到着するところには必ず「よろこびの食卓」があると信じよう。
日々、掃除を続けることが、こころまでキレイに磨かれるように、手づくり料理は家族の健康と、こころを育む。料理の技が増すごとに、こころも豊かになってくる。でも無理をすることは無用。なぜなら料理の基礎とは10%そこそこで、90%は応用(アレンジ)に過ぎないから。必要なのは好奇心と創造力のみ、手づくりほど楽しいものはない!
最近話題の本に「一汁一菜でよいという提案」(土井善晴 著/グラフィック社)がありまして、この本で救われたという人を耳にする。ご飯と味噌汁と漬物だけでよいのです。ところがこれはなかなか奥が深い指南書で、「おとなの食育」推薦図書にしたいほど価値ある一冊。具沢山の味噌汁には、あり合わせで何を入れてもかまわない。ご飯のバリエーションだっていくらでも広げられる。別にテマヒマかける必要などないのです。
「一汁一菜」という基本を踏まえるだけでよし、応用・アレンジを自由自在に、手づくりを楽しめばいいだけ。つまり“毎日食べても食べ飽きない”「一汁一菜」こそ粗食でなく「美食」だった!と共感できる。日本食の本質を捉え直し、これからの食生活の道を示唆してくれる提案です。
〈文責〉コピーライター 小山寅哉
【私の定番常備菜2品】(前号で「黒ごはん」と共に本文でふれましたが、改めて写真入りで紹介します。)
チリメンジャコの大根葉と大根皮煎り
多めの酒で、水分を飛ばすまで中火で、しっとり感を残す程度に煎るだけ。ジャコの塩味のみで、調味料なし。山椒があれば上々。仕上げに香りづけのごま油少々。大根以外に、チンゲンサイ、小松菜、セロリ、旬の野菜がおすすめ。「高山真菜」もぜひ使ってみたい!
大豆と昆布の梅干煮
精進料理の本で知って以来、月に2回はつくる大豆昆布煮。角切り昆布を多め、醤油は少なめながら、梅干(大粒3〜5個)のさっぱり感がふくよかな、精進ごはんの友。
2品とも偶然に海と山の幸の取り合わせ。だからでしょうか飽きない私なりのささやかな食文化です。