おとなの食育 NO.38
「心の健康」のために脳をリセットする
古い常識を消去して新しい食習慣と生活習慣を
食習慣が変わるほどの食情報
私たちは過去に得た知識や経験を、行動基準にして生きている。その多くは自分に役立つかどうかの優先順位で情報処理され、ヒトの脳は都合のいい常識が支配している。こと健康知識についてはその傾向が強いようで、いったん信じ込むとフリーズしたまま。自己の見識を曲げないのは思考がぶれないようだが、偏った思い込みはただの頑固者。そうならないためにも、これぞという情報は常にキャッチして更新しておきたいものである。
現代は過去の常識を覆すような情報に溢れている。例えば“世界一栄養がない野菜”と見下されていたキュウリに「ホスホリパーゼ」という脂肪分解酵素が大量に含まれていることが11年前に発見された。しかしいまだにNHKでも「キュウリは世界一栄養がない野菜」という古い常識のまま流している。この脂肪分解酵素は、従来型より分解力の強い新型で、“血液がサラサラ”になり、“体も温まる”という優れもの。脂っこいものが好きだけど避けている人には、すりおろしキュウリや漬物、酢の物と一緒に摂れば安心だし、旬の夏に限らず、年中楽しめるキュウリレシピを期待したいほど。
また納豆は世界に誇る発酵食品だが、特にタンパク質分解酵素の一種「ナットウキナーゼ」のネバネバ成分は、脳梗塞や心筋梗塞の原因となる血栓を溶かすことで知られている。加えて近年納豆には「リゾチーム」という病原体溶解酵素が見つかっている。これは卵の殻の内側にある酵素で、強力な抗菌作用のおかげで卵は腐りにくいのだが、納豆は卵よりリゾチームが多いらしい。さっそく僕は、納豆に豆乳ヨーグルトを混ぜた自称「豆乳グルト納豆」を食し始めた。どっちも大豆の異種発酵食品、合わないはずがないハイブリットレシピ。爽やかな味覚が新鮮でクセになる。食習慣はなかなか変えられないが、食の新たな発見や知見は自分なりに試してみて、味覚が(おいしいと)記憶され“納得できる”なら新商品にもつながりそう。
生活習慣が変わるほどの健康情報
最近の新聞で目にとまったのは『1日6千歩で死亡リスク半減』(国際チーム研究、60歳以上)という記事(産経3月9日)*1。多くの人は毎日「1万歩」を目安に、気休めでなく真剣に歩いておられる。これは60年代、日本の会社が歩数計を「万歩計」として販売したのが一説らしいが、60歳以上では1日6千歩で死亡リスクが半減(平均3千歩/日との比較)するという研究結果。6千歩以上、1万歩でもリスクは下がらず、歩くペースの関係もみられなかった。6千歩というと(1歩約50㎝で3㎞。1㎞約10分として)1日30分ゆったり歩けば充分だった。とはいえ1万歩(約5㎞、50分/日)を習慣にしている方には、6千歩で切り上げることもない。余分の(2㎞、20分/日)月10時間がムダかムダでないかは捉え方次第、なにしろ継続が一番たいへんなことだから…
「最新データをもう一つ『生活習慣改善で寿命長く』(80歳でも効果 阪大などチーム/産経6月6日)*2 この調査では「改善で寿命延伸につながる生活習慣8項目」を上げている。
要点は、生活習慣病(高血圧など3つ以上)を抱える人が50歳、60歳、80歳の各時点で6項目以上実践していると、2項目以下の人に比べてそれぞれ8.7年、7.2年、3.8年寿命が長かった。また50代から7項目以上を実践した場合の平均寿命は男性87.7歳、女性92.5歳と推定され、日本人の平均寿命より男性約6年、女性で約5年長かった。「生活習慣の改善が長寿にとって重要なことを示した」(坂庭大阪大特任助教)というコメント。
8項目中で効果が大きかったのは喫煙と飲酒。40歳時点で喫煙していない男性は喫煙者より約4年、飲酒量を1日2合以下に抑えている女性はそうでない人に比べて約5年寿命が長かった。これらの最新データをどう捉え、我が身にどう生かすかである。「8項目すべて続けるのは難しいが、半分の4項目を改善して2年長生きできればそれでよし」(「不良長寿」的にはこう考えるが思い通りになるかどうか…)
生活習慣が寿命を決めることは明らかになったが、まだまだ「体の健康」関連情報ばかり。これから求められるのは「心の健康」をケアする医学的アプローチだろう。そのためにも脳は“ゆらぎ”(遊び/平静)状態を保ち、常に柔軟さを心掛けよう。
参考 『「不良」長寿のすすめ』(順天堂大学医学部教授/奥村 康 著/宝島社新書)
『「酵素」の謎 ーなぜ病気を防ぎ、寿命をのばすのか』(鶴見隆史/祥伝社新書)
*1 米国などの国際チーム15研究、計約4万7千人のデータ(7年間の追跡期間中、約3千人が死亡)を解析したもの。
*2 大阪大や北海道大などのチームが、全国の男女4万人以上の健康診断データなどを最大約20年分追跡し、生活習慣8項目と死亡時の年齢を集計。高血圧など複数の生活習慣病を抱えている人ほど延命効果が高く、80歳でも効果が確認された。
