おとなの食育 NO.35

サプリと決別する医食同源の食習慣

栄養補助食品のサプリはクスリとどう違う



サプリの健康価値を鵜呑みにしていいものか?


 毎日の新聞・TVで「健康食品・サプリメント」広告を目にしない日はない。21年度の市場規模予測は2兆6千億。市販医薬品や健康グッズ関連で3兆8千億、以上のセルフヘルスケア市場(生鮮食品を除く)は6兆4千億円!基幹産業ともいえる巨大規模だ。全国至るところに健康不安を抱える人はいる、しかもコロナ禍が拍車をかけた。中小企業から急成長する通販会社や、製薬・飲料・食品など大手の新規参入が引きも切らず。
 サプリメントとは米国生まれの「ダイエタリー・サプリメント」が由来で「栄養補助食品」と訳された。九六年、米国からの市場開放、規制緩和の対応で販売解禁。翌年からビタミン、ハーブ、ミネラル、アミノ酸など“食品としての販売”が次々と認可されてから四半世紀。もともと薬好きの日本人、国民性が育て上げたサプリ漬け先進国家といえそうだ。
 機能性表示ができる米国とは違い、日本ではあくまで食品扱い。だから医薬品のような治療・予防効果の表現はできない。健康食品には国の定めた規格があり、「特定保健用食品(トクホ)」と「栄養機能食品」その他「健康食品」の二つに大別される。サプリの多くは「健康食品」だから、有効性や安全性、品質についての規制がゆるく、いわば“野放し状態”に近いのが実情といえる。*1
 八六年頃、食品には必要栄養素を補う「栄養機能」と、おいしさを感じさせる「感覚機能」があり、さらに病気予防や健康維持など体調調節の働きをする「第三の機能」があることが明らかにされた。つまり公的に「医食(薬食)同源」のお墨付きを得たようなもの。これだけで充分に安心できる食生活が送れるはずなのに、健康至上主義とサプリの急拡大は収まることがない。サプリ愛用者のほとんどの人は「栄養補助食品」であって「食品だから安全」という国の規格を信じて疑わないからだろう。


クスリのような副作用はサプリにもある!


 中毒学の第一人者、筑波大学名誉教授、内藤裕史博士が約1,000件の健康被害を検証した『健康食品中毒百科』(丸善/二〇〇七)には、認知症に効果があるとされるイチョウ葉エキスを一日三回一年半飲んだ高齢男性が麻痺と意識不鮮明に陥った例や、肝臓にいいとされるウコンに肝機能障害が多く報告され、なかには肝硬変の女性が死亡した例など怖い話がいっぱい紹介されている。また素材が安全でも、成分を製剤化する過程で添加された化学物質が悪影響を与えることも。気休めで飲んでいる場合でも、長期間摂り続けていると知らないうちに不健康を招いている可能性があるという。
 近年「特定の成分を抽出、凝縮したサプリを摂り続けると寿命が縮まる」という残念な臨床例が次々と明らかになっている。象徴的なのは大豆イソフラボン。豆腐、納豆、味噌など大豆加工品を多く食べる人たちに、ガンの発生が少ないことが疫学調査で認められているが、サプリで大量に摂ると逆にガンの原因になってしまう「両刃の剣」だそうだ。
 また人参の赤や南瓜の黄色の色素成分βカロチンは、ガンの大きな要因といわれる活性酸素を打ち消す成分として、サプリで補給している人も多い。しかし「世界ガン研究基金」は〇七年、「βカロチンのサプリを摂り続けることによって、喫煙者、禁煙者に関わらず、総死亡率が7%高くなる」と結論付けた。
 さらに世界中で長年信じられてきた「食物繊維が大腸ガン予防に効く」説は、その後5年以上、数万人単位で追跡した日米欧の疫学調査結果は「食物繊維と大腸ガンのリスクに関係はない」と発表している。どんなに体にいい成分も「過ぎたるは及ばざるがごとし」だ。  
 栄養学者の間では「昔ながらの食べ物はすべて体にいい」のが定説。ヒトが何千年も食べ続けてきたことは、壮大な人体実験の結果、体に有用で安全だという証拠で、それらをバランスよく食べるのがいちばん。「○○成分が○○にいい」というサプリを摂り続ければ、効果があってもなくても、栄養素が偏りバランスが崩れる。クスリと変わらないサプリは安易に広告だけで選ばず、正しい情報を得てから判断したいもの*2。“おいしい”感覚機能ゼロのサプリに頼らず「医食同源」の食生活で健康維持できれば、それ以上好ましい健康習慣はないはずである。


参考 ①「体にいい食べ物はなぜコロコロと変わるのか」(畑中三応子 著/ベスト新書)
   ②『「不良」長寿のすすめ』(順天堂大学医学部教授/奥村 康 著/宝島社新書)
*1サプリの安全性に関しては日本健康・栄養食品協会の「認定健康食品(JHFA)マーク」がある一方、同協会と日本健康食品規格協会の「GMP(適正製造規範)マーク」の2つが存在する。認定基準も異なりまぎらわしい上、認識できる人も少ない。
*2サプリメントの有効性・安全性、健康被害の有無を調べるには国立健康・栄養研究所の「健康食品の安全性・有効性情報」(https://hfnet.nih.go.jp/)が詳しい。サプリ広告で刷り込まれた常識が覆されるそうである。
※前回予告の「アンチエイジング」は誌面上、次回4月号「おとなの食育」(NO.36)で紹介予定。

〈文責〉コピーライター 小山寅哉

見た目もクスリと同じサプリの形状