おとなの食育 NO.29

「自然」と「科学」の融合を信じて



「自然との共生」は「旧暦の知恵」にあり


 前号で「暮らしに自然を取り戻そう」と、「旧暦」について触れた。二月「立春」を起点に、三月「啓蟄」、「春分」を迎え、「清明」の四月。温もりが増すごとに“感染症も鎮まれ”と、今年ほど待ち遠しい春はなかった。梅、桃の花、菜の花、ユキヤナギ、圧巻の桜で、気分も一気に開花宣言。今年から僕は“旧暦の知恵で日々を慈しもう”と、古臭くても新しい歳時記カレンダーを入手して使い始めた。
 明治5年まで国歴だった太陰太陽暦は、月の一年(354日)と、太陽の一年(365日)の11日の差を工夫し、月と太陽両方の運行を取り入れた、非常に高度で科学的な暦。例えば「閏月」の入る月が、ここ2千年来は無類に夏が長く、冬が短い百年で、春の到来も桜の開花も毎年早まっている。つまり「温暖の世紀」に入っていることを旧暦はお見通し。近年の異常気象は、あながち温室効果ガスの仕業だけではなさそうだ。
 日本の生活文化をここまで正確に育んできた旧暦を、「潔さ」よりむしろ「愚か」にも捨て去ってしまったのが維新の文明開化。いま再び150年前まで使われていた旧暦の「自然歴」を甦らせ、日本人本来の生活文化を見直すべきだ。自然と共に生きる、かつての日本人は豊かだった。自然からますます乖離する生活は、人間を不幸にするよう思えてならない。旧暦の知恵を活かせば、新たな生活様式も本物になるはず。二十四節気、七十二候、五節供、雑節などから、“日々是新た”な明日を創造してみる必要がある。


自然と共生する科学への期待


 「ゲノム編集 食を救うか」「1号トマト来年流通」(1月18日毎日)という記事をクローズアップしてみたい。このトマトには血圧を下げたり、ストレスを緩和する効果のあるアミノ酸の一種「ガンマアミノ酪酸(GABA)」が通常の5〜6倍多い。普通のトマトにもGABAを合成する能力はあるが、一方でその酵素を阻害する遺伝子もある。ゲノム編集技術で阻害機能を失わせ、GABAを多く作られるように品種改良したものだ。
 京都大では真鯛の筋肉の成長を抑制する遺伝子を制御し、餌を増やさず1.2倍ほど身を増やすことに成功。広島大では卵アレルギーがある人でも食べられる卵を開発。他にも毒芽を防いだジャガイモ、攻撃性を抑え養殖しやすい鯖など、農畜産物の品種改良が広がっている。
 広島大の堀内教授(動物生命科学)は「地球環境の激変で従来通りの食料生産が困難になる中で、10年20年もかけて品種改良していたら間に合わない。食料の安定供給のためにも、数年でできるゲノム編集が重要になることを消費者も認識してほしい」と話す。
 今回のトマトは、成分合成や成長などを阻害する機能を失わせる技術。外来の遺伝子は含まれないため、「遺伝子組み換え食品」の表示義務はない。しかし生物の遺伝子を人為的に改変することへの懸念は根強い。ただ外部の遺伝子が含まれないことが確認できれば、自然界で変異が起きたものと何ら変わらず「安全性に問題はない」とされている。
 要するに自然の摂理を無視するから、安全を脅かす問題が起る。自然のメカニズムに倣い、自然と融合する科学技術であれば、人間や生物環境に多くの恩恵をもたらすことが期待できる。そのためにも、自然の摂理を徹底究明し、自然と科学が融合することだと考える。

〈文責〉コピーライター 小山寅哉

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