おとなの食育 NO.20

二〇二〇「令和」新春
「養生訓」にて寿ぎ申し上げます

 

最新の「がん予防法」も益軒先生お見通し!

国立がん研究センター/厚生労働省研究班が一九九〇年来続く、科学的根拠に基づく調査・分析で示す最新版の「日本人のためのがん予防法」によると…1.「喫煙」吸わない。受動喫煙を避ける。2.「飲酒」節度ある飲酒。3.「食事」偏らずバランスよく、塩分は最小限に、野菜・果物不足にならない。飲食物を熱い状態でとらない。4.「身体活動」日常生活を活動的に。5.「体型」中高年のBMI(肥満度)男性21~27、女性21~25の範囲内で体重管理。6.「感染」肝炎感染検査と適切な措置。機会があればピロリ菌検査。とあり、なんと、これらすべてを益軒先生はお見通しだったようです。※1

たとえば「喫煙」は「少しは益ありといへども、損多し。病なす事あり。習へばくせになり、むさぼりて後には止め難し」とタバコの生活習慣病を明言。益軒先生「飲酒」は好物とみえて「酒は天の美禄なり」としながらも「少しのめば益多く、多くのめば損多し」と諭し、飲食すべて「過ぎたるはなお及ばざるが如し」を徹底して説く。「食事」の野菜不足には「脾胃虚して生菜をいむ人は、乾菜(ほしな)を煮て食ふべし」としたうえ、大根、牛蒡他さまざまな乾菜の作り方まで丁寧に指南しています。
 さらに「身体活動」では、毎食後三百歩の散歩や家事労働を日々実践し、歩行・運動の大切さなど具体的に示す。最新の知見で身体活動レベルが高いと、がんや心疾患の死亡リスク、死亡全体のリスクも低くなるとわかっている。益軒が達見するまだまだ凄い「養生訓」※2は、年の初めから深読みする必要がありそうです。

 

「人生百年時代」益軒先生ならどう生きる?

貝原益軒の学問領域は広大で、江戸前期の知性がここまで高度だったかと驚かされます。大陸文化を習熟したうえで、わが国固有の風土と日本人に適応するように、独自の「不老長寿法」に高めたのです。「総論」「飲食」「五官」「慎病」「用薬」「養老」等で構成された「養生訓」は、やさしく説かれているため誰もが理解しやすく、日本が世界一の長寿を誇っている背景には、「養生訓」の隠れた貢献もありそうです。
 三百年以上経てなお、読み継がれていること自体が凄い。益軒が生きた時代背景は、文明開化まで百五十年以上も前。科学技術の進歩は未熟で、欲望を刺激するモノも乏しい。電気・ガス、クルマやTVもなく、百目蠟燭の明かりがたよりの文明。それでも、不便を感じる暇(いとま)もなく、家事労働と手仕事で満足に暮らせました。身の回りの余計な事柄に邪魔されることなく、穏やかな時代背景の中で、日本人の精神文化が成熟したのです。
 そんな穏やかな生活環境にもかかわらず「質素」「禁欲」を説き続けたのは、古今変わらぬ悩ましき「強欲」や「煩悩」。それを身をもって正す必要性を示し、後世にまで伝えようとしたからではないでしょうか。
 今もし益軒が生きているとすれば、不確実で困難なこれからの時代をどう生きるのか…三百年の時を経ても「人生の理(ことわり)と楽(たのしみ)を味わい尽くす」という益軒の生き様は微塵もぶれず、当然のように百歳を超えてなお“生涯現役”を貫き、さらに実践科学的な「百歳人生の養生法」を編み出しているだろうと想像できます。
 せめて凡人にでもできること…令和事始めの正月ばかりは屠蘇で心身をときほぐし、「養生訓」にて己が人生を繕うのも、めでたき抱負となることを望みます。

健康長寿のお年玉『みそ玉』(表紙とp.21[表紙のごはん]を参照)

※1「水も過ぎれば毒になる『新・養生訓』」東嶋和子(文春文庫)
※2「養生訓」貝原益軒/伊藤友信訳(講談社学術文庫)

 

〈文責〉コピーライター 小山寅哉