おとなの食育 NO.19

師走に思いを馳せたい養生訓

 

「美食」は「粗食」に在り

人はそれぞれ、素直に美味しいという感覚で心身が満たされ、生きる力とよろこびを見い出せます。また自然の恵みを五感で味わう和食が、長寿世界一を支えていることも、食養生につながる要点です。「食する心構え」としてまず、「農」が果たす尊さに感謝して、食べもののいのちを押しいただくこと。顎で噛みしめつつ心でも咀嚼すると、じんわりと生命力が湧き、食べもののすべてが血肉となります。体細胞と心のひだの隅々まで、滋養が沁みわたるイメージ=「食する実感」で毎日毎食をいとおしむ。そんな日々の積み重ねが「食育」の本質とも思えます。
 日頃の「粗食」は決して「粗末な食」ではなく、「食=いのち」を意識すれば「粗食」こそ「美食」なのです。自分にやさしい食を見極め、これがほんとうの「美食」だと信じることが、食養生の肝要となるはず。例えば、京の日常食「おばんざい」や「炊いたん」とか。幼い頃、風邪熱にうなされながら食べた、梅干しと白粥の美味など。いつまでも記憶に残る食こそ「養生に通じる美食」に違いありません。

 

「人生訓」は「養生訓」に在り

貝原益軒いわく「いま八十三歳にいたりて、なほ夜、細字をかきよみ、牙歯固くして一もおちず」。「目も歯も丈夫で長生き」と身をもって体現した説得力が「養生訓」の凄いところ。
 三代将軍家光の時代。筑前福岡藩、黒田家の祐筆役である貝原家の五男として生を受けた益軒(篤信)は、「自ら我が身を弱く疲れやすい性質として養生を心がけてきた」その果実が「養生訓」です。八十五歳で天寿を全うする前年の著作。三百年以上読み継がれ、今も光彩をはなつのは、食養生を中心に我が身で検証した独自の実践的科学の集大成で、分かりやすく親しみやすさが湧くからでしょう。
益軒は江戸前期を代表する儒学者、本草学者の他、哲学、医学、歴史、地理、農学、文学と学問領域は広大。七十一歳で退官後二十冊以上を著した、「生涯現役」の生き様に誰しも心揺さぶられます。質素倹約を旨とし、欲得を律して身をすすぎつつ、人間として最高の美徳である「健康長寿」の果実を後世に示しました。「不摂生、不養生ほど命を削る愚かな行為はない」と戒める「養生訓」。私など、大いに身に詰まされることばかり。「おとなの食育」に向き合うなら、もっと積極的に食養生を心掛ける必要ありです。「養生訓」は人生訓の座右の書として、擦り切れるまで反芻するつもり。また日々養生できたか一年を振り返りながら、師走号表紙のような薬膳『養生ふりかけ』❇︎を進んで取り入れ、益軒伝授の「不老長寿」「生涯現役」への挑戦を、人生百年時代のライフワークにすべきかもしれません。

※『養生ふりかけ』(表紙とp.17[表紙のごはん]を参照)

〈文責〉コピーライター 小山寅哉