おとなの食育 NO.18
「養生訓」で「食い改める」
よく食べ よく生きる
書くという職業柄、折に触れ生き方を見直すつもりで、自身の人生訓などを整理してきました。十年前の我が人生十訓では、一「よく食べよく眠る」二「よく遊びよく学ぶ」三「よく考えよく働く」四「よく走りよく歩く」五「よく読みよく書く」などと続き、最後の十訓で「よく生きよく死す」と結んでいます。「おとなの食育」を執筆する者として「よく食べよく眠る」を一としているのには、何か因縁を感じてしまいます。この「よく食べる」とは、当時は腹八分目など度外視で、もっぱら健啖家を旨としていたように記憶します。でもこれからは「よく食べよく生きる」と、食い改める必要がありそうです。
作家の名言なども時々メモっていて、「女のおっさん箴言集(田辺聖子著)」もその一つ。「かしこい人ほどアホなことをいう。アホほどかしこそうにいう」などは直球どまんなかストライクの好きな言葉。他にも「人間生きてる限り現役『世の中面白い遊びや思うて』生きてる限り現役」とか「人生の意義は自分が何回笑顔になったか、ヒトの笑顔をどれほど見たかで充実度がはかられる」など、柔らかな言い回しに、人間愛を感じさせてくれます。そして五年前に書き留めたマイ人生訓は、生意気でやや気後れがちになりますが、「天分を尽くし 天命にゆだね 天寿を全うする」というものに辿り着いております。
よく生きるための食養生
「おとなの食育」にとって、バイブルと言ってもいいような書があります。貝原益軒の「養生訓」❇︎です。正徳三年(1713年)の版行ですから三百六年前。幼少年期から病弱であったにもかかわらず、だからこそかもしれませんが、数え八十五歳で天寿を全うする前年の出版です。啓蒙的・実学的志向の強い益軒は、みずからが経験し検証できたものは、どんなことでも平易に書き留め、多くの人びとが実践できる養生法を説きました。いまなお多くの人に親しまれる「養生訓」は、養生・健康・楽しみ・平和な生活によって、天寿を全うする人生の全過程が、益軒自身の体験を通して語られています。
では養生の要点は何か。「心気を養う」ことによって健康長寿は求められるとし、内なる欲望に忍び克ち、心身の調和・安らぎをもたらす「こころの平静」を保つことを養生の基本としています。「怒」と「欲」とが「徳をやぶり、生をそこなう」として、「心気を養う」ために禁欲主義を基底とする人間学といえます。そして「養生訓」全八巻の内、食養生については上下二巻にわたっています。「禍は口より出で、病は口より入る」古人の言い伝え通り、食欲はよくよく慎むべき最大の要因だからでしょう。「春蒔いた種を、夏によく養えば、秋の稔りが豊かなように、何事にも勤勉であれば、心身壮健にして天寿を楽しみ全うできる自然の理」という。三百年以上も読み継がれ、さらにこれからも「養生訓」は食を育み、人を養ってくれることでしょう。
貝原益軒「養生訓」(伊藤友信訳/講談社学術文庫)〈文責〉コピーライター 小山寅哉