おとなの食育 NO.17

生命環境を輝かせる
「農」の未来

 

今こそ尊い「百姓仕事」

「籠に乗る人、担ぐ人、そのまた草鞋を綯う人」とは、確か山本周五郎の小説で世の生業を要約してその関係性を示した名言。どんな仕事でも何かしら人様のお役立を果し“傍(はた)を楽”にするもので、仕事に貴賎はない。士農工商の時代、年貢米を産む農は政策的に重用されましたが、百の姓を持つその名の由来には、衣・食・住すべてを生業(自給自足)にできるからと考えられます。そして根本には「いのちをいただく食」の「いのちをたがやす農」ほど大事な仕事はなく、人間にとって不可欠ということが自明の理としてあります。
「農業は人間がいとなみうる職業のなかで、いちばん立派でいちばん有用な、したがってまたいちばん高貴な職業だ」(ルソーは『エミール』の教育論で「農夫のように働き、哲学者のように考える」人間を理想とした)。また「農から明日を読む」の星 寛治は「21世紀は『生命と環境』の世紀。人間の生命は、農林水産業の生み出す食べ物によって育まれ、支えられる。だから、生命を大切にすることは、農を大切にすることでなければならない」と、常々考えていたことが、先人の言葉で確信するに至っています。

 

「農」が果たす明日の6次産業

「物質文明から生命文明へ」パラダイムシフトする21世紀。農が主役になる日は近づきつつあり、小さな農が集合する小さな地域からその変革は始まっています。農産物直売所の出荷者紹介でも、6次産業のさきがけ的な事例が数多く紹介されてきました。
【切畑夢工房】の山蕗、筍のしぐれ煮。【食彩茶屋部会めんめ】の山椒、柚子みそ他〈そこがみそ〉〈よござんしょ〉のネーミングも一流!【中政園】のゆずジャム、干し椎茸。【土々呂美生活改善グループ】の山椒佃煮、柚子マーマレード、梅ジャム。【べじたぶるぱーく】のジャム類、ピクルス、ハーブティー。【田尻生活改善グループ】では糀2倍みそ、柚子ジャム・シロップなど、農家の主婦を中心に、若手就農者のアイデア&パワーが発揮され、どれも手塩にかけた魅力的で価値ある食品揃い!

2月号で紹介の障がい者就労支援NPOでも、自ら育てたトマトで自家製ケチャップの加工販売を開始。彼らにとってそれは生き甲斐(いのちの輝き)そのものです。6次産業には、「食」と「いのち」の未来を拓く原動力を秘めています。「いのちをいただく食」の視点で「農」の現場は常にいのちを耕し、生命環境をより輝かしく実らせるーそれこそが「農のよろこび」「いのちの躍動」なのです。

 

〈文責〉コピーライター 小山寅哉