おとなの食育 NO.16
いのちをいただく食
いのちをたがやす農
食べ方で生き方が変わる?
前回「食べ方で生き方が変わる」という結論に先走りましたが、今回は[生き方=働き方]と、食との関係を探ります。昔から「働かざる者、食うべからず」とか「食うために働く」といった通念がありました。全国の小学校で見られた、二宮金次郎の像。勤勉が美徳の象徴として脳裏に焼き付いていますが、その「尊徳」の教訓は今や「損得」を“忖度する”国柄と化し、ラクして稼ぐ事ばかりを求める、露骨な拝金主義が横行している有り様です。
「働き方改革」で有給休暇や高度職能制などという前に、「働き方の意識改革」が必要なのでは?行き詰まる少子高齢社会、あらゆる分野で担い手不足は否めないのに、いまだに生産と消費の成長を促す国内総生産(GDP)志向は、不毛さゆえの脱力感さえ催しそうです。逆に国民一人当たりの幸福を最大化することにより、社会全体の幸福の最大化をめざす「国民総幸福量 (GNH)」があります。これは自殺者ゼロのブータンで提唱され、国の政策として掲げられているもの。いくら物質が豊かになっても、心が貧しければ幸福度の低さが露呈されるのです。
幸福力を身につける食べ方
「近年の学力低下やキレる子どもたちの内部に、食の荒廃による神経学的なダメージが潜む〜わが国の産業の停滞も、その根源に農業の衰退があることは明らか〜生命文明と共生社会を築くためには農業こそが主役を演じなければならない」(「農から明日を読む」星 寛治著)著者はさらに「生産とくらしを渾然一体として営む農業、あるいは農的生活は、ほんとうの豊かさを実現する最も身近な道」と明言しています。
また塩見直紀さんが唱える「半農半X(=天職)」。「自分たちが食べる分だけの作物を育てる『小さな農』を営みながら、個性、天賦の才を活かした仕事で一定の生活費を得る」という生き方も大いに賛同できます。それは『第三の波』でアルビン・トフラーが予見した「プロシューマー(生産者=消費者)」というライフスタイルであり、今世紀の生き方を示唆しています。
「生活のために働く」のは辛くても、「人生(いのち)のために働く」なら生きるよろこびに満ちあふれます。たとえ「小さな農」でも、「いのちをたがやす」ライフワークなのです。そして常に「いのちをいただきます」という、「感謝のこころを養う食べ方」から「幸福力」がみなぎるはずです。
〈文責〉コピーライター 小山寅哉