おとなの食育 NO.14

人のちからとなる農のちから

人として生きる基本

食・農・自然の大切さを知ってもらうために、JA大阪北部で恒例となっている「親と子の食農体験学習」や「食農教育出前授業」は、子どもたちが健やかに成長するために欠かせない、とても意義深く価値ある活動だと思います。なぜなら学校の教室ではできない実習こそ実学であり、自然と触れ合うことができる貴重な体験だからです。
確かに英語やAI、パソコン学習なども、これからの時代の要請として必要なのかもしれません。ただ小学校からの義務教育で必須だからと、英語教育を取り入れている保育園もあるらしく、ちょっとそれは早計過ぎる気がします。座学とか耳学問はそんなに急がなくても、本人がその気になることが大事で、いつからでも始められるのですから。
義務教育でほんとうに重要なのは、むしろ食農や食育、環境学習など体験的な実学を通して得られる「人として生きる基本」を身につけることが先決だ!と力説しても仕方がないのでしょうか?
特に「農のちから」が及ぼす影響は、生きるちから、人のちからの糧となるその一例を紹介します。

社会的弱者も見守る農

先日、堺市内の3カ所でハウス営農(約千坪)と同時に、障がい者の就労(継続・移行)支援事業を、農福連携(*1)で営まれている松川さんにお話を伺いました。松川さんはもともとハローワーク出身で障がい者を担当していたという経緯もあり、8年前54歳での早期退職後に、農業を主体としたNPO法人「フィロソフィひまわり」を立ち上げられました。

JA堺市支所で週1回開催される朝市にも出荷

就労支援事業所前の直売所

「従来のいわゆる作業所は内職ばかりの内向き志向。社会に溶け込むためには、事務所内に誰もいない外向きが大事」というのが持論で、退職後は「地域貢献のため」に農福連携に至ったようです。「支援学校を卒業してきた子たちは、社会教育ができていません。だから就労はなかなか困難」そこで「WiLL ひまわり」農園では種蒔きから収穫、出荷までの一貫作業で毎日土に触れ、数十種も育てる野菜の顔を見ながら働く。みんな口を揃えて「農業が楽しい !」と言うそうです。農業が園芸療法(*2)を担っている好例ではないでしょうか。
また農園と事務所の前に設けた2カ所の小さな直売所では、野菜の袋詰めから販売応対を通じ、地元のいろいろな人びとと接することによって、日々明るく元気に社会体験を積み重ねています。

ハウス農園前の直売所

それだけでなく、農園では近隣の園児たちをトマトの収穫に招いたり、中学校の調理実習に野菜を提供したり。直売所で売れ残ったトマトを全量、売値で引き取ってくれることで評判の花屋「好花園」さん(店頭で地元農家の新鮮野菜を販売)が支援してくれたりと、地域が元気になるのは、こうした結びつきが好循環しているからでしょう。
自然のちからを借りて土を育て作物を育てる「農」は、人が生きるちからを育み、地域の元気を育てている。つまり「農のちから」は、間違いなく「国のちから」の基盤となっていることを、改めて認識したいものです。

〈文責〉コピーライター 小山寅哉

*1)農福連携(農業と福祉のニーズを合致させ、農作業などの受委託を進めること)
*2)園芸療法(身体的、精神的障害の治療やリハビリなどのために植物や園芸作業を用いる方法)