おとなの食育 NO.13

おいしさを自然に育むお米の天日干し

 

楽においしい米作り

最近まで見かけられたはさ掛け風景
(三重県名張市丈六橋付近:平成26年頃)

「平成」が最後となる年を迎え、「おとなの食育」事始めとしてはやはりお米の話から語り始めないとならないでしょう。八十八と書いて「米」と読むように、古来、米作りにはそれだけの手間暇が必要とされてきた。また、漢字で「田の力」と書いて「男」と読むように、田んぼの仕事は意外に力仕事であることを、農機具を使わずに米作りを経験した人ならおわかりでしょう。本来はたいへんな力仕事である米作りも、今や耕うん機や田植え機、コンバインなどが導入され、本当に楽に作業が行われるようになりました。

 

「はさ掛け」天日干し米

“はさ掛け”というのは、刈り取った稲を束ねて稲架(はさ)と呼ばれる横木に吊るし、お米を天日干しして自然乾燥させるもの。刈り取って収穫したばかりのお米は、水分が約20%ほど含まれている。水分が多いとカビ等の原因となり、保存がきかないため15%程度まで乾燥させる必要がある。そこで、古来より稲刈りした後には“はさ掛け”などで天日干しをして自然乾燥させてきたわけです。

ところが、この自然乾燥(はさ掛け)はほとんどが手作業で行われるため大変手間がかかります。また、乾燥するまでひと月近くもかかるため、効率がよく作業性のいい機械乾燥(乾燥機)で行うようになってきた。さらに、最近はほとんどがコンバインで刈り取りと同時に脱穀するので籾の状態で収穫され、そのまま乾燥機に入れると一気に乾燥までできるようになったことも、機械乾燥が普及する要因になりました。結局、流通するお米のほとんどが機械乾燥によるお米ということになって、自然乾燥米はそれだけ希少価値があり、高値で販売されるというわけです。

さて、実際のところ、天日干しのお米の味はどうなのでしょう。三重県名張市の棚田で無農薬の有機農法で長年天日干し米を作っている知人に聞くと、「味の好みは人それぞれ。自然乾燥米のほうがおいしいなどとは言いきれない。ただ、最近では低温で乾燥ができるなど乾燥機の性能がアップして、水分ムラが生じやすい自然乾燥に比べ、まんべんなく一様に乾燥ができる機械乾燥のほうが、お米を乾燥させる点では優れているかもしれない」と言う。

結局のところ、おいしさの優劣にはいたりませんでしたが、いずれにしても、“はさ掛け”による天日干し米がおいしいと感じる根拠には、自然の中でゆっくり乾燥させること。それだけでもおいしくなるということ。米の一粒一粒には機械ではかもし出せない、太陽と自然が生み出す香り、滋味・滋養がしみ込んでいるのではないでしょうか。

〈文責〉コピーライター 小山寅哉

※関西では「はさ掛け」のほかに、稲木(いなぎ、いなき、いのき)、稲掛け(いねかけ、いなかけ)などとも呼ばれています。